当事者の思いを感じていきたい

僕が、田中希和さんと出会ってから1年半が経ちました。 僕は、パンジーで働くまで車椅子を介護した経験はありませんでした。車椅子の押し方や操作の方法を一から教わり、練習しました。少し慣れた頃、近くの公園まで田中さんと一緒に散歩に行きました。歩いて10分の道のりでしたが、すごくドキドキしたのを覚えています。 また、田中さんは言葉でのコミュニケーションがなく、最初はどんな気持ちかがわかりませんでした。でも、僕が失敗したらニヤッとするし、嫌いな食べ物は絶対に口を開けてくれないし、甘いもんはめちゃ好きやし、気に入らんと薬も吐き出すし、氷川きよしが好きやし、付き合っていくうちに、いろんなことがわかってきました。 さて、田中さんは、お母さんが亡くなったのをきっかけに、グループホームの生活をスタートしました。お父さんは、時々田中さんに会いに来ては、田中さんを笑わせ、年に何回かは、親子で旅行をするのも楽しみの一つだったそうです。 しかし、数年前からお父さんが田中さんを訪ねてこなくなりました。家に行ってみると、引っ越しをしたようで、誰もいなかったそうです。 それが去年、やっと居場所がわかりました。お父さんは、老人ホームに入所していたのです。田中さんにそのことを伝えると、嬉しいような、ほっとしたような表情をしていました。 お父さんに会いに行くことになりました。行きの車中、田中さんは少し緊張した様子でした。色んな感情がめぐっていたのだと思います。老人ホームに着いて、受付をすませ、エントランスで待つ事数分。お父さんが現れました。 田中さんに話しかけるお父さん。それに大きな口を開けて応える田中さん。田中さんの笑顔を見て、僕もうれしい気持ちになりました。短い時間でしたが、楽しい時間をすごすことができました。田中さんに、「またお父さんに会いに行きますか?」と聞くと、大きな目をさらにクリクリッとさせて応えてくれました。(中山祐一)